喪失と祈りを抱く「Lift Me Up」|リアーナMVで読む『Black Panther』の余韻

Rihanna「Lift Me Up」は、映画『Black Panther: Wakanda Forever』のために発表された、静かな祈りのようなバラードです。
この記事では、MVに映る浜辺の静けさ、歌詞に込められた「支えてほしい」という願い、そしてChadwick Bosemanへの追悼としての意味を解説します。
派手な復帰曲ではなく、声そのものの温度で聴かせるところに、この曲ならではの重みがあります。

目次

「Lift Me Up」は喪失を抱きしめるためのバラード

「Lift Me Up」は、2022年10月にリリースされたRihannaの楽曲です。映画『Black Panther: Wakanda Forever』のサウンドトラックから届けられた曲で、Rihannaにとって久しぶりのソロ楽曲としても大きな注目を集めました。

ただし、この曲の本質は「カムバックの派手さ」ではありません。むしろ、音数を抑えたバラードの中で、大切な人を失ったあとも、その存在に支えられながら前へ進もうとする感情が描かれています。

タイトルの「Lift Me Up」は、直訳すれば「私を持ち上げて」「支えて」という意味です。ここでは単なる励ましではなく、心が沈みそうなときに、誰かの記憶や愛にそっと引き上げてもらうような祈りとして響きます。

『Black Panther: Wakanda Forever』と重なる追悼の意味

この曲を語るうえで欠かせないのが、映画『Black Panther: Wakanda Forever』とのつながりです。

同作は、前作でT’Challaを演じたChadwick Bosemanの不在を受け止めながら進む作品でもあります。「Lift Me Up」は、その喪失感に寄り添うように置かれた楽曲で、映画の物語だけでなく、現実の別れにも重なる余韻を持っています。

作曲・制作には、Tems、Ludwig Göransson、Rihanna、Ryan Cooglerが関わっています。特にLudwig Göranssonは映画音楽でも重要な役割を担っており、楽曲全体に映画的な広がりと抑制された緊張感を与えています。

この曲が強いのは、悲しみを大きく叫ばないところです。長く洋楽を聴いてきた耳には、Rihannaの声がいつもの「強いポップスターの声」から少し離れ、誰かに語りかけるような近さで響いてくるのが印象的です。

MVは浜辺の静けさでRihannaの声を前に出す

MVでは、Rihannaが海辺に立つ姿が中心に描かれます。激しい展開や派手な演出ではなく、波、空、砂浜、そしてRihannaの表情が、曲の静かな感情を支えています。

映像の中には映画の場面も差し込まれますが、MV全体は説明的というより、喪失のあとに残る静けさを映像化したような作りです。浜辺という場所も、終わりと始まり、別れと再生の境目のように見えます。

派手な衣装やダンスで魅せるRihannaを期待すると、最初はかなり抑えた映像に感じるかもしれません。けれど、この曲ではその抑制が大切です。余白があるからこそ、声の震えや息づかい、言葉の間にある感情が前に出てきます。

歌詞の“Lift Me Up”が伝える「支えてほしい」という願い

歌詞全体はとてもシンプルです。難しい比喩や複雑な物語で聴かせるというより、ひとつの願いを何度も確かめるように進んでいきます。

“Lift me up”という言葉は、英語としては「元気づけて」「引き上げて」「支えて」というニュアンスを持ちます。この曲では、悲しみの中で誰かにすがる弱さというより、大切な存在とのつながりを失わないための祈りとして受け取れます。

また、“hold me down”のような表現には、物理的に抱きしめるだけでなく、精神的に支える、そばにいてくれるという響きがあります。Rihannaの歌い方はそこを大きくドラマ化せず、静かに言葉を置いていくため、聴き手自身の喪失や記憶にも重なりやすくなっています。

派手さを削ったサウンドが、Rihannaの声を変えて聴かせる

Rihannaの代表曲には、ダンスホール、エレクトロポップ、R&B、ヒップホップ寄りの楽曲など、身体を動かす強いビートを持つ曲が多くあります。その流れで聴くと、「Lift Me Up」はかなり異色です。

サウンドは、ピアノやストリングスを中心にした穏やかなバラード。ビートで引っ張るのではなく、声の余韻、音の間、メロディの伸びで聴かせます。

だからこそ、この曲ではRihannaの声の質感がよく見えます。低く落ち着いた声、かすかに揺れるフレーズ、言葉の終わりに残る息。長く洋楽を聴いていると、アーティストの「声そのもの」が曲の主役になる瞬間がありますが、この曲はまさにそのタイプです。

アカデミー賞候補になったことが示す楽曲の立ち位置

「Lift Me Up」は、映画音楽としても高く注目され、第95回アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされました。Rihannaにとって初のアカデミー賞ノミネートとなった点でも、キャリア上の重要な1曲です。

チャートでも大きな反応を得ていますが、この曲の価値は順位だけでは測りきれません。『Black Panther: Wakanda Forever』という作品の感情を背負いながら、Rihanna自身の長い沈黙後の再登場にも重なる。その二重の文脈が、この曲を単なる映画主題歌以上のものにしています。

明るく踊れるRihannaももちろん魅力的ですが、「Lift Me Up」では、彼女の声が静かな場所に立ったときの強さが見えてきます。大きな声で励ますのではなく、そっと隣にいるような歌です。

今あらためて聴くと、静かな余韻が残る理由

「Lift Me Up」は、気分を一気に上げる曲ではありません。むしろ、夜にひとりで聴いたときや、大切な誰かを思い出す時間に、ゆっくり効いてくる曲です。

MVの浜辺、映画の記憶、Rihannaの抑えた歌声。そのすべてが重なって、喪失を悲しみだけで終わらせず、祈りや感謝に変えていくような余韻を残します。

Rihannaの楽曲をもっと知りたい方は、代表曲やMVの魅力をまとめたアーティストページもあわせてご覧ください。

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この記事を書いた人

洋楽とミュージックビデオを約30年にわたり楽しんできました。ポップ、R&B、ロック、EDMを中心に、時代ごとのヒット曲やアーティストの代表曲、ミュージックビデオの表現を追いかけています。

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