“Less than a Lover”というタイトルは、日本語に直訳すると「恋人未満」や「恋人以下の関係」を意味します。
JENNIE(ジェニー)のこの楽曲は、友人というには熱があり、恋人というには名前がつかない、そんな絶妙で曖昧な関係のときめきと切なさを歌っています。
MVではスペインの夏の光の中で交わされる視線と距離感を通して、言葉にできない二人の関係性が静かに描き出されています。
「恋人未満」という曖昧な関係を指すタイトル
タイトルにある”Less than a Lover”(恋人未満)は、お互いに強い惹かれ合いを感じながらも、恋人という関係へ踏み出せずにいる二人の現在地を示しています。
歌詞の中で描かれるのは、決定的な言葉を避けたまま重なる視線や、ふとした瞬間に生まれる沈黙です。友達として笑い合う時間の中にふと恋人のような熱が混ざるものの、その先へ進むことで今の関係が壊れることを恐れる繊細な迷いが潜んでいます。
恋人にならないことを選んでいるのか、それともなれないのか。その答えをあえて曖昧に置いたまま進むメロディが、聴く人の胸に甘く苦い記憶を呼び起こします。
スペインの光と影が映し出す、近くて遠い二人
MVの舞台となったのは、真夏の太陽が差し込むスペインの街並みとリゾート地です。
映像内では台湾のモデルNah Kai(ナ・カイ)と共演し、ドライブやプールサイド、海辺で過ごす二人だけの時間が切り取られています。一見すると楽しげな夏のバカンス映像のようでありながら、カメラが捉える距離感にはどこか微かな緊張が漂っています。
MVの中で注目したいのは、二人の物理的な近さと心の距離の対比です。
- 車内で並んで座りながらも、ふと遠くを見つめる視線
- プールサイドで重なりそうになりながら、一瞬ためらう手元
- 太陽の眩しさの影に隠された、言えない言葉の気配
派手な演出や過度なストーリー展開を省き、自然光を生かした色彩とカット割りによって、楽しさと切なさが表裏一体となった二人の時間を鮮やかに画面へ定着させています。
ローファイなギターとヴィンテージ鍵盤が作る、だるい夏の空気
サウンド面において今作を特徴づけているのは、温かみのあるローファイなギターリフと、どこか懐かしい質感を持ったヴィンテージのエレクトリック・キーボードの音色です。
Cashmere CatやTyler Spryらがプロデュースを手掛けたトラックは、音数を必要最小限に削ぎ落とすことで、ビートの隙間に心地よい余白を生み出しています。力強いダンスビートで押し切るのではなく、ゆったりとしたミディアムテンポの上でリラックスしたサウンドが展開します。
サビに向けて大げさに盛り上げるのではなく、あえてトーンを抑えたまま進行する構成が、真夏の午後の少しだるくまどろむような空気を余すことなく表現しています。
言葉にしない感情だからこそ、声が近くに感じられる
JENNIEのボーカルは、息を多く含んだ繊細なニュアンスで終始歌い上げられています。
ラップで魅せる鋭いディクションとは対照的に、今作では語りかけるようなウィスパーボイスに近い発声が多用されています。サビで声がぐっと耳元に近づくようなミックス調整が施されているため、語り手の迷いや密やかなときめきが、まるで隣で打ち明けられているかのような距離感で届きます。
はっきりと「好き」と言い切らないからこそ、声の揺れや吐息の音そのものが歌詞以上の感情を語りかけてきます。再生を止めたあとも、夏の終わりの夕風のように静かな感触が手元に残る一曲です。
JENNIEのソロワークが持つ表現の幅を知ることで、この曲で見せた力みのないボーカルの味わいはさらに深まります。他の楽曲で見せるアグレッシブな表情との対比も合わせて楽しんでみてください。

