「Like A Prayer」は直訳すると「祈りのように」。ただし歌詞で呼びかけてくる存在は、神とも恋人とも受け取れるように描かれています。
マドンナはその二重性を、ゴスペルが鳴り響くサウンドと、人種差別や信仰を扱ったMVへつなげました。
祈ることと欲すること、信じることと行動することが、同じ場所で重なっていく曲です。
「Like A Prayer」は、恋人の声を祈りに重ねた歌
タイトルの「Like A Prayer」は、単に宗教的な祈りを表しているわけではありません。
歌詞の語り手は、名前を呼ぶ声を聞くと安心し、その声に導かれるような感覚を語ります。「ひざまずく」「真夜中」「天国」「天使」といった宗教を連想させる言葉が並ぶ一方で、相手に身を委ねたいという恋愛的、身体的な意味も重ねられています。
そのため、呼びかけている相手を神と考えれば信仰の歌に聞こえ、恋人と考えれば強い欲望を描いた歌に聞こえます。どちらか一方に答えを固定しないことが、この曲の引力になっています。
神聖さと身体性を、同じ言葉から立ち上げる
祈りと恋愛を近づけるだけなら、言葉遊びで終わることもあります。しかし「Like A Prayer」では、歌声の変化がその曖昧さを支えています。
冒頭のマドンナは比較的近い距離から語りかけるように歌い、まだ個人的な告白を聞いている感覚があります。そこへリズム、ギター、コーラスが重なり、サビでは感情が教会全体へ広がるように開いていきます。
ひとりの相手に向けた私的な感情が、多くの声に包まれた祈りへ変わっていく。歌詞だけでなく、音の大きさそのものが意味を変えていく構成です。
静かな告白が、ゴスペルの大合唱へ開く
この曲を一度聴いただけで覚えてしまう理由のひとつが、ポップロックとゴスペルの接続です。
低く響くギターと重いリズムには緊張がありますが、ゴスペル・クワイアが前へ出るにつれて、閉じていた場所の扉が開くような高揚が生まれます。マドンナの声だけだった感情が、合唱によって共同体の声へ変わっていくのです。
特に終盤は、サビを繰り返しながらコーラスの存在感が増していきます。恋愛の陶酔にも宗教的な恍惚にも聞こえるため、体が先に反応するダンス曲でありながら、言葉には簡単に割り切れない重さが残ります。
誤認逮捕の物語が、祈りを行動に変える
メアリー・ランバートが監督したMVでは、マドンナが白人男性たちによる女性への襲撃を目撃します。女性を助けようとした黒人男性が、犯人と間違われて警察に連行され、マドンナは教会へ逃げ込みます。
そこで彼女が向き合うのが、逮捕された男性と同じ顔をした黒人聖人の像です。夢のような場面の中で像は人間の姿になり、マドンナは手のひらに聖痕を思わせる傷を受けます。
しかし、このMVの中心は宗教的な映像そのものではありません。祈りによって慰められた主人公が、最後には証言することを選び、無実の男性を救うところにあります。
このMVは、祈りを逃げ場所として描かない。正しいと分かっている行動へ踏み出すための力として描いています。
燃える十字架と黒人聖人が示す、人種の視点
マドンナが燃える十字架の前で踊る場面は、宗教への挑発として大きな論争を呼びました。ただし、燃える十字架は同時に、白人至上主義や黒人への暴力を連想させる記号でもあります。
黒人男性が無実の罪を着せられる物語、黒人の姿をした聖人、白人女性との親密な場面を並べることで、MVは「誰が善人として扱われ、誰が疑われるのか」という問いを浮かび上がらせます。
宗教的なイメージを壊すことだけが目的なのではなく、そのイメージの中心に黒人男性を置き直したことが、映像をより複雑なものにしました。神聖さを誰の姿に認めるのかまで問う構成です。
ペプシ騒動が示した、広告と表現の境界
「Like A Prayer」は、ペプシの大規模な広告キャンペーンにも使用されました。広告版は、子ども時代のマドンナと現在の姿を結びつける明るい内容でしたが、その後に公開された公式MVは、燃える十字架や聖痕、黒人聖人との親密な場面を含むものでした。
宗教団体などから抗議が起こり、ペプシは広告を取り下げ、マドンナとのキャンペーンも終了しました。
同じ曲が、一方では企業広告のための親しみやすいポップソングになり、もう一方では宗教、人種、性を問い直す映像作品になる。その落差は、ポップミュージックが商品であると同時に、社会へ意見を投げかける表現でもあることを鮮明にしました。
幕が下りるラストが、MVを寓話に戻す
物語の最後では、登場人物たちが舞台上の出演者のように並び、カーテンが閉じます。
それまで現実の事件や宗教的な幻として見えていた映像が、最後の数秒でひとつの劇だったことを明かされます。けれども、問いかけまで架空になるわけではありません。
無実の人が疑われたとき、目撃者は黙っているのか。それとも、自分が見たことを話すのか。
「Like A Prayer」は、祈りと欲望を重ねた歌でありながら、MVでは信仰の価値を行動によって測ろうとします。大合唱の高揚が強く残るのは、救いを待つ歌ではなく、自分が正しいと思う側へ立つ歌として響くからです。
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「Like A Prayer」で見えるのは、親しみやすいポップソングの中に、信仰や欲望、人種差別といった重いテーマを入り込ませるマドンナの表現力です。
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