“Unholy”は、ただ「神聖ではない」という意味の言葉ではありません。
Sam SmithとKim Petrasはこの曲で、家庭の外に隠された欲望を、重いビートとショーのようなMVに変えています。
タイトルの背徳感を、音・歌詞・映像のすべてで押し出しているのがこの曲の強さです。
「Unholy」は“禁断”をポップに見せる言葉
“Unholy”は直訳すれば「神聖ではない」「不浄な」という意味ですが、この曲ではもっと俗っぽく、背徳的で、人に見せられない行動を指す言葉として響きます。
歌詞では、家族に知られない場所で何かをしている人物が描かれます。ポイントは、その行為を悲劇として重く描くのではなく、ほとんど見世物のように鳴らしていることです。
“悪いことをしている”という内容なのに、曲は暗く沈み込まない。むしろ、罪悪感さえダンスフロアの照明にさらしてしまうような作りになっています。
低いビートと合唱のようなフックが、曲を儀式っぽくする
サウンドでまず耳に残るのは、低く沈むビートと、掛け声のように反復されるフックです。
Sam Smithの声はなめらかですが、ここではバラードのように感情を長く伸ばすより、短いフレーズを強く刻む方向に寄っています。
その結果、曲全体はクラブミュージックでありながら、どこか儀式のようにも聞こえます。
重い低音の上で声が重なっていくため、単なる浮かれたダンス曲ではなく、秘密をみんなで唱えているような圧が生まれています。
音の作りに注目すると、この曲は“告白”よりも“暴露”に近いです。
隠していたものをそっと打ち明けるのではなく、ステージ上でライトを当てて見せてしまう。その大胆さが、短い曲尺の中に詰まっています。
MVの“Body Shop”は、欲望を隠す場所であり見せる場所
MVでは、“Body Shop”という言葉が重要な舞台装置になっています。
表向きには車の修理工場を思わせる言葉ですが、映像ではそこが妖しいショーの場として立ち上がっていきます。
この二重性が、曲のテーマとよく噛み合っています。
外から見れば普通の場所に見えるのに、中ではまったく別の欲望が動いている。MVはその構造を、暗い照明、ステージ感のある演出、ダンサーたちの身体表現で見せています。
ここで面白いのは、MVが秘密を“暴く”だけで終わらないところです。
隠された行動を裁く映像というより、それをキャバレーのように誇張して、観客の目の前に置いてしまう。だから「Unholy」は、罪の歌であると同時に、見られることを楽しんでいる曲にも聞こえます。
Kim Petrasの声が、曲の毒を甘くする
Kim Petrasのパートは、この曲をただ重くて不穏な方向に閉じ込めません。
彼女の声が入ることで、サウンドにポップな光沢が加わり、危うい内容なのに耳に残りやすい軽さが生まれます。
Sam Smithの低めで艶のある声が“秘密の告発”を担うなら、Kim Petrasの声はその場をさらにショーアップする役割に近いです。
視点がひとつに固定されないことで、曲は単なる浮気の物語ではなく、欲望そのものを舞台化したポップソングとして広がっていきます。
この掛け合いがあるからこそ、“Unholy”は暗いテーマを扱いながらも、プレイリストの中で強く機能します。
重さと派手さが同時に鳴っているため、一度聴くとフックの形が頭に残ります。
『Gloria』期のSam Smithを象徴する、解放へ向かうポップ
“Unholy”は、Sam Smithのアルバム『Gloria』期を語るうえでも重要な曲です。
初期のSam Smithは、繊細なバラードや切実な歌声で知られていましたが、この曲ではもっと身体的で、クラブ寄りで、挑発的な方向へ踏み出しています。
もちろん、歌声の美しさを捨てたわけではありません。
むしろ、その声をきれいに聴かせるだけではなく、欲望、ユーモア、毒気のあるポップ表現に使っているところに変化があります。
2023年には、この曲でSam SmithとKim Petrasがグラミー賞のBest Pop Duo/Group Performanceを受賞しました。
ヒット曲としての派手さだけでなく、ポップミュージックが誰の声を中心に置くのか、という意味でも記憶される1曲になっています。
笑っているのに、どこか冷たい後味が残る
“Unholy”は、聴きやすい曲です。
フックは短く、ビートは強く、MVも一度見ればコンセプトが伝わりやすい。
それでも、聴き終えたあとに残るのは単純な高揚感だけではありません。
家庭、秘密、欲望、見世物としての身体。それらがポップな形に圧縮されているため、曲は笑っているようで、どこか冷たい視線も持っています。
今あらためて聴くと、この曲の鋭さは“背徳的なことを歌っている”点よりも、それを隠さずショーにしてしまう点にあります。
Sam Smithの代表曲の中でも、声の美しさだけでは語れない、危うく華やかな転換点として聴ける1曲です。
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