「I Give Everything I Have 2 U」は、自然な日本語にすると「持っているものすべてをあなたに捧げる」という意味です。
タイトルの「2 U」は「to you」を数字とアルファベットで置き換えたカジュアルな表記。The Avalanches(アヴァランチーズ)がLoaded Honeyを迎えたこの曲は、2026年10月16日発売のアルバム『No Bad Memories』に収録されています。
「2 U」は“to you”──まっすぐな愛の言葉を記号のように見せる
“I Give Everything I Have to You”をそのまま訳せば、「自分が持っているすべてをあなたに与える」。
「2=to」「U=you」という表記にすることで、意味そのものは非常にストレートなのに、タイトルの見た目はSMSや広告コピーのように短く、記号的になります。
The Avalanches自身が、この「2 U」という表記に特定の意味を込めたと説明した公式コメントは確認できません。ただ、『No Bad Memories』がCM、ジングル、サウンドロゴ、古いテクノロジーの音と「記憶」の関係を扱う作品であることを考えると、簡潔で人工的なタイトル表記もアルバムの空気によくなじみます。
1967年のR&Bが、2026年のハウスへ変わる
この曲で面白いのは、まっすぐなラブソングの言葉と、The Avalanchesらしい「過去の音を別の記憶として再構築する」方法が重なっていることです。
Pitchforkは「I Give Everything I Have 2 U」について、The Esquiresによる1967年のR&B曲を素材にしながら、きらめくようなスタッター感のあるハウスへ変換した楽曲と評しています。正式クレジットにもThe EsquiresのGilbert Moorerの名前が記載されています。
ただし、今回確認できた公式配信クレジットでは、使用されたThe Esquiresの楽曲名までは明記されていません。そのため、特定の曲を「原曲」と断定するより、1967年のR&Bの記憶をサンプリング/再構築した曲として捉えるのが正確です。
しかも本編は約1分37秒とかなり短く、アルバム終盤には同じLoaded Honeyを迎えた「Final Credits (Loaded Honey Version)」が約3分18秒で再登場します。Slant Magazineも、後者が「I Give Everything I Have 2 U」の温かな1970年代風ポップのグルーヴを再び呼び戻す構成だと指摘しています。
一度通り過ぎた音が、あとになって別の形で戻ってくる。この仕掛け自体が、『No Bad Memories』のテーマである「記憶」によく似ています。
Loaded HoneyはJungleから生まれたもう一つのプロジェクト
フィーチャリングされているLoaded Honeyは、Jungleで活動してきたLydia KittoとJ Lloydによるプロジェクトです。
2人の共同作業はJungleの『Loving In Stereo』『Volcano』制作期に深まり、Jungleには収まりきらない、より親密で物語的なアイデアを形にする場所としてLoaded Honeyが生まれました。
「I Give Everything I Have 2 U」ではLydia Kittoがボーカル、Lydia KittoとJ Lloydがプロデュースにも参加。The Avalanches側だけで完成させた客演曲ではなく、Loaded Honeyの音楽性が制作そのものへ入り込んだコラボレーションになっています。
渋谷を走り続けるハーレイ・ジョエル・オスメント
MVの主役は、『シックス・センス』などで知られる俳優ハーレイ・ジョエル・オスメント。
舞台は東京・渋谷です。Jonathan ZawadaとThe AvalanchesのRobbie Chaterが監督し、撮影はAndrés Arochi。オスメントが車を運転しながら渋谷の交通を進み、車内で踊る様子をワンテイクで追う構成になっています。
大掛かりな物語を次々に見せるのではなく、「車で街を移動する」という日常的な時間を一本のショットで映画のように見せるのが特徴です。そして映像は途中から“広告”を思わせる方向へ少しずつ変化し、『No Bad Memories』全体に流れる架空CMや消費社会の記憶というモチーフへつながっていきます。
映画のワンシーンのように物語を見せる洋楽MVをもっと探したい場合は、洋楽ナビのシネマティックMV特集もあわせて楽しめます。

「全部を捧げる」という言葉も、いつか記憶になる
『No Bad Memories』でThe Avalanchesが見つめているのは、名曲だけではありません。昔のCM、企業の音、起動音、ジングルのような、本来なら忘れてしまいそうな音まで人間の記憶に残っているという感覚です。
「I Give Everything I Have 2 U」も、その考え方を短い1曲に凝縮しています。
「あなたに全部を捧げる」という普遍的なラブソングの言葉。その背後には1967年のR&Bがあり、2026年のハウスへ組み替えられ、さらに東京の道路と架空広告のような映像へ姿を変えていく。
新しい曲なのに、どこか昔から知っていたように感じる。その“記憶のずれ”こそが、この曲をThe Avalanchesらしい一曲にしています。
参考・出典
- Universal Music Japan
- Apple Music「No Bad Memories」
- Pitchfork「The Avalanches: No Bad Memories Album Review」
- shots「Haley Joel Osment delivers The Avalanches」
- The Line of Best Fit「Jungle’s Lydia Kitto and J Lloyd’s unveil new project, Loaded Honey」

