嫌いと言うほど忘れられない「Hate Me」|エリー・ゴールディング×ジュース・ワールドMV解説

「Hate Me」は、別れた相手に「嫌いだと言って」と迫りながら、実はまだ互いを忘れられていない愛憎を描いた曲です。
エリー・ゴールディングの冷たく澄んだ歌声と、ジュース・ワールドの傷を隠しきれないラップが、強がりと未練を別々の角度から映します。
MVではスマートフォンや絵文字、壊れていく黒い壁が、SNS時代の恋愛に残る執着を視覚化しています。

目次

「嫌い」と言わせたいのは、忘れられていない証拠

タイトルの「Hate Me」は、単純に相手から嫌われたいという意味ではありません。

サビでは「嫌って」「別の人に置き換えて」「記憶から消して」と、別れた相手を挑発する言葉が繰り返されます。しかし、本当に無関心なら、相手が自分を嫌っているかどうかを確かめる必要すらありません。

この曲で描かれる憎しみは、愛情の反対ではなく、まだ相手を意識している証拠としても受け取れます。嫌われることでさえ、完全に忘れられるよりはましだという、少しねじれた感情です。

エリーの挑発、ジュース・ワールドの傷

エリー・ゴールディングは、サビを鋭く区切りながら、相手の感情を試すように歌います。高く明るい声なのに、言葉には冷たさがあり、余裕を装った挑発として響きます。

一方、ジュース・ワールドのパートでは、相手から否定されることへの恐れや、自分が簡単に置き換えられるのではないかという不安が前へ出ます。

エリーが「嫌いだと言ってみて」と外側から仕掛けるのに対し、ジュース・ワールドはその言葉をすでに内側で信じかけている。この距離の違いが、単なる男女の掛け合いでは終わらない重さを作っています。

スマートフォンが恋愛の第三者になるMV

MVでは、スマートフォンやSNSを思わせる画面、巨大な絵文字など、デジタル上のコミュニケーションを示すモチーフが使われています。

エリーが巨大な包丁の絵文字に乗る場面や、スマートフォンを使った儀式のような演出は、別れの怒りを深刻に描くだけでなく、毒のある遊びへ変えています。

ここでのSNSは、単なる背景ではありません。比較、嫉妬、監視、削除といった行動を通して、別れた2人の間に居座り続ける第三者として描かれています。

黒い鏡のような壁が傷つき、壊れていく表現も、画面越しに保たれていた関係が崩れていく様子として見ることができます。

煙がラップの言葉を可視化する

ジュース・ワールドの場面では、口元から吐き出される煙が、ラップの言葉に合わせて動いていきます。

煙は雰囲気を作るだけの装飾ではなく、胸の内に抱えていたものが、言葉と一緒に身体の外へ漏れ出しているように見せる役割を持っています。

エリーの場面では感情がスマートフォンや絵文字へ変換され、ジュース・ワールドの場面では感情が煙になる。目に見えないはずの執着を、異なる映像表現で形にしている点が、このMVの見どころです。

明るい声と重いビートのねじれ

サウンドは、低音を効かせたトラップ寄りのビートと、短く反復されるフレーズを中心に組み立てられています。

エリーの透明感のある声は軽やかに抜けていきますが、「hate」「replace」「erase」といった強い言葉が連続するため、明るさの中に棘が残ります。

ジュース・ワールドの声はそれより低く、少しかすれた質感を持ち、ビートの奥へ沈むように入ってきます。二人の声をきれいに溶け合わせず、違う感情のまま並べたことが、この曲の緊張を保っています。

攻撃的な人物を演じるエリー・ゴールディング

「Hate Me」でのエリー・ゴールディングは、繊細な心情を静かに語る人物というより、元恋人を挑発し、傷つけ返そうとするキャラクターを演じています。

歌詞は怒りや復讐心を含んでいますが、MVには巨大な絵文字やスマートフォンを使った非現実的な演出もあり、感情を重苦しい告白だけにはしていません。

後に「Hate Me」はアルバム『Brightest Blue』の「EG.0」側へ収録されました。内面を深く描く本編とは別の場所に置かれたことで、この曲がエリーの大胆でコラボレーション色の強い一面を担っていることが分かります。

「Hate Me」で見せた冷たい挑発とは異なり、エリー・ゴールディングには、恋愛の高揚、喪失、解放感をそれぞれ違う声の表情で描いた曲があります。代表曲を続けて聴くと、同じ透明感のある声が曲ごとにどう変わるのかが見えてきます。

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