「PASSENGER」は、好きな相手の心を動かしたいのに、自分ではハンドルを握れないようなもどかしさを歌った曲として受け取れます。
Alex WarrenのMVでは、その届かなさを、真面目な告白ではなく少し大げさな見世物のように描いています。
派手なことをすればするほど、相手との距離が埋まらないところが、この曲の苦さでもあります。
「PASSENGER」が描くのは、主導権を持てない恋
タイトルの「PASSENGER」は、直訳すると「乗客」や「助手席の人」という意味です。
この曲では、ただ車に乗っている人というより、自分の気持ちは強いのに、関係の行き先を自分だけでは決められない状態として響きます。
助手席から運転しようとしても、車は思い通りには動きません。恋愛でも同じで、相手の気持ちや視線をこちらへ向けたいのに、決定権は自分だけにない。そのズレが、曲全体の焦りを作っています。
「好き」と言えば届くわけではなく、頑張るほど空回りしてしまう。そこを重く沈ませすぎず、ポップな勢いで押し切るのが「PASSENGER」の面白いところです。
MVは、振り向かせたい人ほど見てもらえない
MVでは、Alex Warrenがスマホに夢中な女性の注意を引こうと、さまざまな方法でアピールします。
歌う、マジックを見せる、紙吹雪を使う、空にメッセージを描く。演出はどんどん大きくなっていきますが、彼女の視線はなかなかこちらへ向きません。
この構図が、この曲の感情をかなり分かりやすく見せています。
ただの片思いMVではなく、「見てほしい」という気持ちがショーのように膨らんでいくMVです。大げさな仕掛けが増えるほど、逆に相手との距離がはっきり見える。笑えるのに、少し痛い。そのバランスがMVの芯になっています。
コミカルな演出が、歌詞の切実さを軽くしすぎない
「PASSENGER」のMVはかなりユーモラスですが、曲の中心にある感情は軽くありません。
相手の夢やペースに合わせているうちに、自分の望みが置き去りになる。そんな感覚が、タイトルの「助手席」というイメージと重なります。
MVの見どころは、派手な演出そのものよりも、その派手さが報われないところにあります。
どれだけ頑張っても、相手が見ているのは自分ではない。だからこそ、画面のにぎやかさの奥に、少し情けなくて切実な恋の姿が残ります。
サウンドは、焦りを明るいポップに変えている
サウンドは、Alex Warrenらしい大きく開けるポップ感を前に出しています。
声は感情を押しつけるというより、少し急ぎ足で相手に追いつこうとしているように聴こえます。リズムの明るさがあるため、歌詞のもどかしさが沈み込みすぎず、もう一度サビを待ちたくなる流れになっています。
この曲は、悲しい恋を静かに泣く曲ではありません。
うまくいかない気持ちを抱えたまま、まだ相手の方へ走ってしまう曲です。だから、MVのコミカルさとサウンドの勢いがよく合っています。
『WILDCHILD』へ向かう、回復途中のポップソング
「PASSENGER」は、Alex Warrenのアルバム『WILDCHILD』へ向かう流れの中で聴くと、さらに意味が見えやすくなります。
『WILDCHILD』は、彼にとって過去の痛みや喪失、そこからの回復を含む作品として語られています。その中で「PASSENGER」は、深い傷を直接語る曲というより、恋愛の中で自分の居場所を探すポップソングとして置かれているように感じられます。
重たいテーマを持つアーティストでも、すべての曲を暗くする必要はありません。
むしろ「PASSENGER」のように、空回りする恋を笑える映像に変えることで、Alex Warrenの表現には別の軽さが生まれています。痛みをそのまま見せるのではなく、少し派手な演出に変換する。その距離感が、この曲を聴きやすくしています。
Alex Warrenの愛の描き方を、別の角度から聴く
「PASSENGER」は、愛されたい気持ちと、相手に届かない焦りをコミカルに見せる曲です。
一方で「Ordinary」では、愛する人を特別な存在としてまっすぐ歌い上げる方向に振れています。さらにROSÉとの楽曲では、声の重なり方や距離感によって、恋の見え方がまた違って聴こえます。
「PASSENGER」でAlex Warrenの少し不器用な恋の表現に惹かれたなら、次は「Ordinary」やROSÉとの楽曲を続けて聴くと、彼が愛をどれだけ違う角度から描いているかが見えやすくなります。


