「Dancing With The Devil」は、「悪魔と踊る」という言葉で、依存の誘惑に近づきながらも自分なら制御できると思い込む危うさを描いた曲です。
デミ・ロヴァートは2018年の過量摂取に至る過程を歌詞で振り返り、MVでは当時の出来事を自ら再現しています。誘惑との駆け引きではなく、すでに主導権を奪われていたことに気づくまでの告白です。
「悪魔と踊る」が意味するもの
タイトルにある「devil」は、特定の人物というより、薬物やアルコールへの依存、そして危険だと分かっていても手を伸ばしてしまう誘惑の象徴として受け取れます。
歌詞の語り手は、最初から破滅を望んでいるわけではありません。少しだけなら問題ない、自分は十分に我慢してきた、自分ならいつでもやめられると理由を重ねています。
その小さな自己弁護が、やがて戻れない地点へつながっていきます。この曲で最も恐ろしいのは悪魔の存在ではなく、「まだ大丈夫」と語りかけてくる自分自身の声です。
制御しているつもりが、制御されていた
歌詞では、酒から始まった行動が次第に危険な薬物へ進んでいく流れが描かれています。
転落を突然の出来事として見せるのではなく、自分に与えた小さな許可が積み重なっていく構成です。曲名の「dancing」にも、本人は相手と対等に踊っているつもりでも、実際には相手の動きに支配されているという逆転が含まれているように響きます。
天国に近づきすぎたという表現も、幸福に手が届いたという意味ではありません。死がすぐそばまで迫っていたことを、天国との距離に置き換えた言葉として読めます。
大きな歌声が、逃げ場を狭くする
曲は暗い鍵盤と抑えたリズムを土台に、デミ・ロヴァートの声を前へ押し出していきます。
序盤では、語り手が自分を納得させるように静かに歌います。しかし展開が進むにつれて声量が増し、高音には制御を失った事実を認めざるを得ない切迫感が加わります。
通常なら解放感を生むはずの大きな歌声が、この曲では告白から逃げられない状況を作っています。声が強くなるほど立ち直ったように聞こえるのではなく、隠していた出来事が近くまで迫ってくるのです。
MVは2018年の夜を再現する
MVは、薬物使用やトラウマ、性暴力に関する描写を含むという注意表示から始まります。
映像では、バーで酒を飲む場面から、自宅で意識を失い、発見され、救急搬送されるまでの出来事が再現されています。デミ・ロヴァートは本人とマイケル・D・ラトナーの共同監督として、過去の自分を自ら演じました。
病院のベッドで歌う現在の場面と、過量摂取に至る過去の場面が交互に現れます。そのため、出来事を安全な距離から説明する映像にはなっていません。
説明するほど過去との距離は生まれます。しかしこのMVは再現することで、記憶が今の身体にも残っていることを画面へ引き戻しています。
同名ドキュメンタリーとつながる告白
「Dancing With The Devil」は、2021年に公開されたドキュメンタリーシリーズ『Demi Lovato: Dancing with the Devil』と同じ題名を持つ曲です。
ドキュメンタリーでは、2018年の過量摂取、その前後の出来事、回復へ向かう過程が本人や周囲の証言を通して扱われています。曲とMVだけでは描き切れない背景を、映像作品と組み合わせて語る構成です。
アルバム『Dancing With The Devil…The Art Of Starting Over』の冒頭には、次の順番で楽曲が並びます。
- 助けを求める孤独を歌う「Anyone」
- 過量摂取に至る過程をたどる「Dancing With The Devil」
- 病院で目覚めた後の経験につながる「ICU」
この3曲の後に「The Art Of Starting Over」が始まります。生き延びた瞬間を結末にせず、そこから生活を作り直す時間をアルバムの本編にした構成です。
生還をきれいな物語に変えない
MVの終盤には、過去の出来事を生き延びた人物としてのデミ・ロヴァートが映ります。ただし、苦しみを乗り越えてすべてが解決したという演出にはしていません。
歌詞には、誘惑を断つことの難しさや、自分の判断を過信したことへの後悔が残されています。回復は一度の決断で完成するものではなく、何度も選択し直す過程だと伝わってきます。
「Dancing With The Devil」が見せるのは、痛みを乗り越えたスターの勝利ではありません。自分が制御を失った瞬間を、自分の声と身体でもう一度引き受ける姿です。
同じデミ・ロヴァートの代表曲でも、「Skyscraper」や「Stone Cold」では痛みが比喩や恋愛の感情を通して描かれています。「Dancing With The Devil」を聴いた後にほかの楽曲へ進むと、彼女が苦しみを歌へ変える方法をどのように変化させてきたのかも見えてきます。

