「Eyes Closed」は、亡くなった親友への溢れる想いと、残された者が抱える「悲しみ」の大きさを正面から描いた楽曲です。
ポップで口ずさみやすいメロディの裏側には、どれだけ街やバーが賑わっていても拭えない孤独と、目を閉じることでしか現実を和らげられない切実な感情が隠されています。
「Eyes Closed」が描くもの|目を閉じた瞬間にだけ現れる親友の面影
「Eyes Closed(目を閉じて)」というタイトルの言葉は、単なるロマンチックな情景ではありません。
歌詞の中で描かれるのは、親友を失ったあとに訪れる、日常のそこかしこに残る面影です。街へ繰り出し、お酒を飲み、音楽が流れるバーに身を置いても、聞こえてくる曲のすべてが失った存在を思い出させます。
目を開けていると、彼がもうどこにもいないという残酷な事実と向き合わざるを得ない。だからこそ、語り手は目を閉じることで、まるでまだ相手がすぐ隣にいるかのような幻影の中に逃げ込みます。
「目を閉じて踊り続ける」というフレーズは、悲しみを麻痺させるための必死の抵抗であり、彼がいない世界を生きるための唯一の術として響きます。
なぜ「青いモンスター」が背後に立ち続けるのか
MVで最も強烈なビジュアルとして登場するのが、エドのすぐ後ろをついて回る巨大な「青いモンスター」です。
このモンスターは、目に見えない「喪失感」や「悲しみ」の具現化です。映画『ハーヴェイ』に登場する主人公にしか見えない巨大なウサギや、感情を生き物として描く絵本から着想を得て作られたこの演出は、悲しみの特質を見事に捉えています。
悲しみは、他の誰にも見えず、自分だけにしか感じられない重荷として空間を満たしていきます。バーにいても、車に乗っていても、モンスターは少しずつ大きくなり、逃げ場を失わせます。
映像の終盤では、他の人々もそれぞれ異なる色のモンスターを抱えていることが明かされます。誰しもが他人には見えない悲しみを背負って生きているという視点が差し込まれることで、画面の奥に静かな共感が広がります。
失恋ソングから「親友への哀悼」へと変化した制作背景
もともとこの楽曲は、ポッププロデューサーのマックス・マーティンらとともに、オーソドックスな失恋の歌として2018年頃から制作が始まっていました。
しかし、2022年にエドの親友であり起業家のジャマル・エドワーズが急死するという大きな悲劇が訪れます。自身にとっての道しるべであった存在を失ったエドは、アーロン・デスナーとともに楽曲を根本から再構成し、歌詞とサウンドを自身のトラウマや喪失感と直接結びつくものへと書き直しました。
モンスターの色である「青」は、生前のジャマルが愛した象徴的なカラーでもあります。個人的な悲痛な体験が曲の芯に据えられたことで、当初のポップソングから、アーティストの人生そのものを宿した重厚な1曲へと昇華されました。
軽快なリズムが引き立てる、言葉の重みと静寂
サウンド面では、アコースティックギターのピチカートが刻む軽やかなテンポが全体を引っ張ります。
一聴するとダンサブルでキャッチーなポップソングの骨格を持っていますが、サビに向かって歌声が高まるにつれ、息を含んだ声の切迫感が前面に出てきます。アコースティックな温かみと電子的なビートが交錯する中で、ふと伴奏が引く瞬間に言葉だけが近くへ迫ってきます。
軽快なビートが鳴り響くほど、その隙間に漂う虚無感が際立ち、再生が終わったあとも静かな余韻が手元に残ります。
エド・シーランが悲しみと向き合いながら描いた他の名曲や、キャリアの中での音の変化をたどると、この曲に込められた感情の深さがより鮮明に浮かび上がります。

