未練のループを癒やしの儀式で描く「Never Really Over」|ケイティ・ペリーMV解説

終わったはずの恋なのに、心だけが何度も同じ場所へ戻ってしまう。
Katy Perry「Never Really Over」は、その感覚を重く沈ませるのではなく、明るく走るダンスポップとして描いた曲です。
MVでは、別れを乗り越えようとする姿が、癒やしの儀式のような映像でユーモラスに表現されています。

【Katy Perry:ケイティ・ペリー】
キャリア:2017年のアルバム『Witness』以降、自身名義の新しいポップ表現を打ち出した時期の楽曲
音楽性:明るいダンスポップの推進力と、終わった恋を引き戻される歌詞の切なさが同居している
聴くポイント:軽快なビートの中で、未練や記憶のループをどうポップに変えているかに注目したい

目次

「Never Really Over」は、終わらない恋の記憶を歌う曲

タイトルの「Never Really Over」は、「本当の意味では終わっていない」というニュアンスで受け取れます。

歌詞では、別れた相手を忘れたつもりでも、ふとした瞬間に気持ちが戻ってしまう語り手が描かれます。完全に過去にしたはずなのに、心の奥ではまだ続いている。そんな未練や記憶のしぶとさが、曲全体の軸になっています。

ただし、この曲は失恋を暗く閉じ込めるタイプではありません。ビートは前へ進み、サビでは言葉が一気に加速していくため、感情の整理というより、頭の中で何度も再生される恋のループそのものを音にしたように響きます。

明るいビートほど、未練のしぶとさが浮かび上がる

「Never Really Over」は、ダンスポップとしての軽快さが強い曲です。

テンポよく進むリズム、明るく跳ねるようなサウンド、サビで畳みかけるメロディによって、曲は止まらずに前へ進んでいきます。けれど歌われている内容は、前へ進みたいのに戻されてしまう恋の記憶です。

このズレが、この曲の面白さです。暗い音で未練を描くのではなく、明るい音の中に未練を走らせることで、「忘れたいのに忘れられない」という状態がよりリアルに見えてきます。

音の作りに注目すると、感情が沈む前にリズムが身体を動かしてしまうため、失恋ソングでありながら再生ボタンを押し直したくなる感じが残ります。

MVは“癒やし”を借りて、恋の中毒性を見せている

MVでは、Katy Perryが自然の中にあるリトリートのような場所で、さまざまなセルフケアや儀式めいた場面に身を置きます。

瞑想、ヒーリング、身体を使った表現、集団での動き。そうした映像は、別れた恋を癒やそうとする姿にも見えます。一方で、どこか過剰で不思議な雰囲気もあり、恋を忘れるための行為そのものが、また別のループになっているようにも受け取れます。

このMVがうまいのは、未練を泣き顔だけで見せないところです。癒やしの場所にいるはずなのに、画面の中では感情がまだ忙しく動いている。恋を手放す努力まで含めて、まだ終わっていないことを見せています。

Dagny「Love You Like That」とのつながり

「Never Really Over」は、Dagnyの「Love You Like That」からの影響が知られている曲です。

そのため、メロディの明るさやポップな推進力に、北欧ポップにも通じるクリアな感触があります。Katy Perryらしい大きなサビの開き方と、軽やかに跳ねるメロディが合わさることで、恋愛のしつこい記憶を重くしすぎず、ポップソングとして開かれたものにしています。

元になった要素を知ってから聴くと、この曲のキャッチーさが単なる派手さではなく、反復されるメロディの気持ちよさによって支えられていることが分かります。

『Witness』後のKaty Perryが選んだ、再始動のポップ

この曲は、Katy Perryが2017年のアルバム『Witness』以降に発表した楽曲としても重要です。

「Teenage Dream」期のような爆発的な明るさだけではなく、恋愛の複雑さや自分を立て直す感覚も含んだポップになっています。大きく見せるだけではなく、傷ついたあとにもう一度軽やかに立ち上がるような表現が前に出ています。

作品全体の流れで見ると、「Never Really Over」は過去の恋を完全に消す曲ではなく、それを抱えたまま次へ進む曲です。終わらせることより、終わらなさと共存することをポップに変えているところに、この曲の強さがあります。

何度も戻る感情を、ポップソングとして肯定する

「Never Really Over」は、失恋をきれいに整理できない人のための曲です。

忘れたつもりでも戻ってしまう。癒えたと思っても、また思い出す。そうした感情の揺り戻しを、Katy Perryは重苦しくではなく、明るいビートと鮮やかなMVで描いています。

今あらためて聴くと、この曲は「未練を断ち切る」よりも、「まだ残っている気持ちを否定しない」方向に開かれています。
だからこそ、恋が終わったあとにも前を向きたいとき、この曲は不思議なくらい軽く背中を押してくれます。

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