ROSÉの「new trick」でいう“new trick”は、単なる「新しい技」ではありません。恋愛や人生で傷ついたあと、自分なりの方法で立ち直って前へ進むための“新しい手”を意味する言葉として使われています。
2026年9月18日に日本で配信された「new trick」は、失恋の痛みにとどまるのではなく、その痛みを勢いに変えてしまうアップテンポな1曲です。2024年のアルバム『rosie』で内面を深くさらけ出したROSÉが、同じ傷つきやすさを持ちながら、今度はもっと遊び心のある方法で外へ踏み出しています。
ROSÉのソロ曲を「APT.」「toxic till the end」「number one girl」なども含めて見渡したい場合は、代表曲とMVをまとめたページから追うと、その変化が分かりやすくなります。

「new trick」は傷つかない方法ではなく、傷ついた後の“新しいやり方”
「new trick」は、恋愛で失敗しない方法を覚えた歌ではありません。
曲の出発点には、好きになった相手に感情や夢をさらけ出し、その関係が思い通りに続かなかったときの痛みがあります。それでも今回は、なぜ傷ついたのかを延々と振り返る方向には進みません。
傷ついた心を拾い上げて、ドアを蹴り開けるように次へ進む。
The Black Labelも「new trick」について、人生や恋愛によって生まれる傷や困難に屈せず、自分だけの方法で乗り越えて前へ進むメッセージを持った曲と説明しています。
つまりタイトルの“trick”は、相手をだますための「トリック」ではなく、落ち込んだ自分を再び動かすために身につけた手段と考えると、曲全体の意味がつながります。
ここで重要なのは、ROSÉが突然「もう恋愛では傷つかない人」になったわけではないことです。
感情的になってしまう自分も、恋を信じてしまう自分も変わらない。変化したのは、傷ついた後にどうするかです。
そこに「new trick」の軽さと強さがあります。
『rosie』では痛みを見つめ、「new trick」ではそこから飛び出す
「new trick」の変化が最も分かりやすいのは、2024年のアルバム『rosie』と並べたときです。
『rosie』では、恋愛の失敗、孤独、不安、承認されたい気持ちなど、ROSÉ自身の内側へ深く潜っていく曲が多く収録されていました。
特に「toxic till the end」は、終わらせた方がいいと分かっていても離れられない関係を描いた曲です。

「toxic till the end」では、なぜその関係から抜け出せなかったのかという痛みそのものが物語になります。
一方、「new trick」は傷を分析するよりも先に動きます。
恋愛で傷ついた。
でも、それで終わりにはしない。
この反応の速さが、両曲の大きな違いです。
さらに『rosie』の「number one girl」では、誰かにとって特別な存在になりたいという願いと、その裏側にある不安や孤独が前面に出ていました。

「number one girl」のROSÉが「誰かに選ばれること」を強く求めていたとすれば、「new trick」は他人から何を与えてもらうかより、自分で自分を立て直すことへ視線が移っています。
『rosie』で描いた弱さを否定したのではなく、その続きを別の態度で描いた曲として聴くと、「new trick」は単に明るくなっただけではないことが見えてきます。
悲しい曲を書き続けたROSÉが「悲しくない曲」を作った
この方向転換は偶然ではありません。
ROSÉはVogueのインタビューで、「new trick」が2026年のMet Galaから数日後、多忙なニューヨーク滞在中に書かれたことを明かしています。
制作時、ROSÉは長年コラボしてきたAmy Allenに、最近は悲しい曲に共感できず、悲しい曲を書けなくなっていると話したといいます。
『rosie』では本人が驚くほど「悲しい曲を次々と書いていた」だけに、これはかなり大きな変化です。
その結果生まれた「new trick」について、ROSÉはAmy Allenと作った中でも特にかわいらしい曲になったという趣旨で語っています。
だからこの曲の明るさは、失恋の痛みを軽く扱っているからではありません。
悲しい感情を書き続けてきた時期を抜け、別の感情を歌える場所まで来たこと自体が曲の背景になっています。
歪んだギターと速いビートが「考える前に進む」感覚を作る
The Black Labelは「new trick」をエネルギッシュなガレージパンク曲と説明しています。
曲を聴いて最初に耳へ入るのも、繊細なピアノや静かな余白ではなく、歪んだエレキギターと前へ押し出すリズムです。
ROSÉのボーカルにも、『rosie』のバラードで見せた息を長く残すような歌い方とは違い、短いフレーズを次々と放り込んでいく勢いがあります。
そのため曲のテーマである「立ち直ること」も、人生を変える大きな決意というより、
落ち込む。
立ち上がる。
次へ行く。
という身体的な動きとして伝わってきます。
ROSÉ自身は、この曲を制作したとき、2000年代のApple広告で流れていたようなポップロックも思い浮かべていたと語っています。
少し粗いギター、明るいメロディ、若々しい勢い。その組み合わせが、1990年代後半から2000年代前半のポップロックを思わせる懐かしさにつながっています。
「APT.」と同じ明るさでも、今度は自分自身を動かしている
ROSÉが近年見せた明るいポップという意味では、Bruno Marsとの「APT.」も思い浮かびます。

ただし、2曲の明るさは少し違います。
「APT.」は韓国の飲み会ゲームを出発点に、誰かと一緒に声を出して楽しむ外向きのエネルギーが中心でした。
「new trick」では、その勢いが自分自身へ向いています。
誰かに楽しませてもらうのではなく、自分で気分を切り替え、自分でドアを開けて外へ出る。
「APT.」で見えたROSÉのいたずらっぽさを残しながら、それを失恋からの回復へ使ったような関係になっています。
全編iPhone 18 Pro撮影のMVは、失恋を“青春映画”へ変えてしまう
「new trick」のMVを監督したのはDave Meyersです。
さらに大きな特徴が、Appleの「Shot on iPhone」キャンペーンとして、MV全編がiPhone 18 Proで撮影されたことです。
映像には、赤いヴィンテージカー、スクールスタイルを思わせる衣装、明るい郊外、空のプールを走るスケートボーダー、体育館でバンドと演奏するROSÉなどが登場します。
洗練された巨大セットの中で完璧なスターを演じるというより、2000年代のアメリカ青春映画へ突然入り込んだような世界です。
空のプールでは、ROSÉが縁に横たわったすぐ上をスケートボーダーが飛び越えていきます。
体育館ではバンドを背負って歌い、別の場面では車に感情をぶつける。
どれも「傷ついた女性がひとり静かに泣く」という典型的な失恋MVとはかなり離れています。
そこが、この映像の面白いところです。
MVで起きているのは「失恋」から「遊び」への変換
「new trick」のMVには、複雑な物語を解かなければ理解できない謎があるわけではありません。
むしろ印象に残るのは、ROSÉが止まっていないことです。
車を蹴る。
仲間と動く。
スケートボードが飛ぶ。
バンドと演奏する。
失恋によって生まれたエネルギーを、すべて動きへ変えているようにも見えます。
公式に個々の場面の象徴的な意味が説明されているわけではありませんが、曲が「傷を自分なりの方法で乗り越える」ことをテーマにしていると考えると、映像も同じ方向を向いていると読むことができます。
失恋した自分を消すのではなく、その状態から何か楽しいことを始めてしまう。
それこそが、このMVで視覚化された“new trick”なのかもしれません。
iPhone 18 Proという小型のカメラで撮影された機動的な映像も、作り込まれた大作感より、ROSÉと仲間たちのすぐ近くにいるような感覚を強めています。
「new trick」は、傷つかなくなったROSÉの歌ではありません。
『rosie』で見せた弱さや感情の大きさをそのまま持ちながら、今度はそこから抜け出す方法を覚えた曲です。
悲しみを消すのではなく、ギターを鳴らし、外へ飛び出し、少し無鉄砲に遊んでしまう。
タイトルの“new trick”を知ると、この曲の明るさそのものが、ROSÉの変化を表していることが見えてきます。

