オリヴィア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)とチャペル・ローン(Chappell Roan)によるコラボ曲「expectations (feat. Chappell Roan)」は、中身のない恋愛に妥協せず「これからは相手に高い基準(expectations=期待・条件)を求める」と宣言するエンパワーメント・ソングです。2026年6月発売のオリヴィアの3rdアルバム『You Seem Pretty Sad for a Girl So in Love』収録曲を、2人の共通プロデューサーであるダン・ナイグロ(Dan Nigro)と共に再構築し、2026年10月15日に音源、翌10月16日に公式MVが公開されました。
オリヴィアにとってキャリア初の公式リミックスであり、チャペル・ローンにとっても初の客演(feat.)クレジットとなる本作は、1番でオリヴィアが「ダメ男(guy)」を、2番でチャペルが「思わせぶりな女性(girl)」をそれぞれの視点からバッサリ斬り捨てる対比構造が大きな反響を呼んでいます。
【30秒で把握する「expectations (feat. Chappell Roan)」の3つの核心】
- 曲の結論:無条件に心を捧げて傷ついた過去の恋愛を反省し、今後は優柔不断で中身のない相手に一切妥協しないと誓う自己肯定のアンセム。
- 1番と2番の視点変化:1番(オリヴィア)は親のスネかじりの「ダメ男(guy)」、2番(チャペル)はデート後に3週間音信不通になる「L.A.の女性(girl)」へとターゲットが切り替わる仕掛け。
- MVの元ネタ:トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが司会者役で出演し、『The Dating Game』や『Family Feud』など米国のレトロなテレビ番組をパロディ化した映像劇。
サビのキラーフレーズ和訳とカタカナ発音ナビ|「settle for a guy」のリンキングとリズム
楽曲の中で最も耳に残るのが、80年代ニューウェイヴ調のビートに乗って繰り返されるサビ冒頭のキラーフレーズです(MVの01:37〜、03:21〜、04:15〜)。まずは核となる一節の意味とニュアンスを確認しましょう(※著作権保護のため、歌詞全文はGoogle検索やApple Music・Spotify等の公式配信サービスでご確認ください)。
【サビ冒頭の核心フレーズ】
原詞:I won’t settle for a guy with a fake job
日本語訳:実態のない仕事をしているような男で妥協なんてしない
ニュアンス:「settle for〜」は「(本当は不本意だけれど)〜で我慢する・妥協して手を打つ」という英語表現です。2番のチャペル・ローンのパート(03:21〜)では「a guy」が「a girl」に置き換わります。
このサビを原曲のスピード感のまま口ずさむための、英語特有の音の変化(リンキング/リエゾン)とカタカナ発音のポイントは以下の通りです。
- settle for a guy(セッル・フォラ・ガイ):「settle」の「tt」はアメリカ英語のフラップTで「セッル」と軽く弾き、直後の「for a」が繋がって「フォラ」になります。続く「with a fake job」も「ウィザ・フェイク・ジョブ」と一息で繋げると原曲のグルーヴに乗れます。
- with zero stipulations(ウィズ・ズィーロウ・スティピュレイションズ):難単語の「stipulations(契約や交際における条件・制約)」は「スティ・ピュ・レイ・ションズ」と「レイ」に強いアクセントを置きます。「以前は条件ゼロ(zero stipulations)で心を差し出してしまった」という過去の反省を表す重要語です。
- take careful consideration(テイク・ケアフル・コンシダレイション):直前の「stipulations」と語尾の「-ation(エイション)」で韻を踏んでいます。「これからは慎重に見極める(careful consideration)」と、1拍ごとに言葉を噛みしめるように発音するのがコツです。
歌詞の深い意味を考察|オリヴィア(1番)とチャペル(2番)の決定的な違い
本作は単なる失恋ソングではなく、プロデューサーのダン・ナイグロから「毎晩ステージで自分に言い聞かせられるマントラ(呪文・信条)のような曲を書いてみないか」と提案されたことをきっかけに誕生しました。オリヴィアはケンドリック・ラマーの「HUMBLE.」のように一度聴いたら忘れられない直接的なアティチュードを目指したと語っており、そこに親友であるチャペル・ローンの視点が加わったことで、歌詞の立体感が一気に増しています。
スラング「a guy with a fake job(実態のない仕事をする男)」が刺すL.A.の恋愛事情
1番のヴァース(00:48〜01:16)でオリヴィアが振り返るのは、ロサンゼルスのパーティーで出会った男性との苦い失敗談です。頭が良いわけでも面白いわけでもないのに「素敵なアパート」と「親に買ってもらった車(a car his parents bought)」を持っていただけで完璧な相手だと思い込み、数ヶ月後にようやく目を覚まして着信拒否(ブロック)するまでの経緯がシニカルに歌われます。
ここでサビに登場する「a guy with a fake job(偽の仕事=実態のない仕事をする男)」というフレーズは、L.A.のデートシーンに溢れる「肩書きだけはクリエイターや起業家、インフルエンサーを名乗りながら、実際には親の資産で暮らしている中身のない相手」を痛烈に皮肉った表現です。さらにオリヴィアは、自分から動かない受動的な男性(passive)や優柔不断な態度(indecision)を「痛々しいほど魅力がない」と切り捨て、過去の失敗を「新しい判断材料(new information)」へと昇華させています。
本作が収録された3rdアルバム『You Seem Pretty Sad for a Girl So in Love』のリード曲であり、同じく毒気のあるユーモアで恋愛の終わりを描いた「drop dead」の歌詞の意味や背景については、以下の記事で詳しく解説しています。

チャペル・ローンが「a girl with a fake job」と歌い替えるクィアな視点
2026年10月16日公開のApple Music『The Zane Lowe Show』のインタビューによると、オリヴィアが自身の悲惨なデート体験をチャペル・ローンに愚痴った際、チャペルは「なんてこと、もう女の子と付き合った方がいいよ」と返したといいます。ところが、チャペル自身が新たに書き下ろした2番のヴァース(02:34〜03:00)では、「相手が女性であってもL.A.の恋愛の厄介さは変わらない」というオチが鮮やかに描かれます。
クィア・アイコンとして支持を集めるチャペルは、新しい舌ピアス(tongue piercing)をした女性をコンサートの最前列に連れて行ったものの、「あとで電話するね」と言われたまま3週間も連絡を無視(ゴースティング)されたエピソードを披露します。そして、はっきり断ればいいのに思わせぶりな態度でフェードアウトするやり方を「Classic L.A. behavior(典型的なL.A.の振る舞い)」と一刀両断し、直後のサビで「a girl with a fake job」「any girl that is passive」と対象を女性(girl)に歌い替えています。
1番のヘテロセクシュアルな視点(Guy)と2番のクィアな視点(Girl)が並走することで、「セクシュアリティを問わず、自分の価値を軽く扱う相手に妥協する必要はない」という普遍的な連帯へとメッセージが拡張されている点が、このリミックス最大の魅力です。
MV考察|レトロな米テレビ番組『The Big Expectations Show』と『Sister Squabble』の元ネタ
バルディア・ゼイナリ(Bardia Zeinali)監督が手がけた公式MVは、1960〜80年代のアメリカのテレビ番組をパロディ化した架空の番組『The Big Expectations Show』が舞台です。司会者「ジョニー・ジョンソン(Johnny Johnson)」役としてサプライズ登場するのは、80年代ニューウェイヴの伝説的バンド、トーキング・ヘッズ(Talking Heads)のフロントマンであるデヴィッド・バーン(David Byrne)です。客席にはデヴィッド・バーンの顔写真の段ボールパネルが並び、シュールなテレビショー空間を作り出しています。
- 前半(00:10〜):お見合い・クイズ番組『The Big Expectations Show』
米国の古典的恋愛バラエティ『The Dating Game』やクイズ番組『Jeopardy!』『Hollywood Squares』を掛け合わせたセットに、パット・ベネターやホイットニー・ヒューストンら80年代ディーヴァ風の衣装・ヘアメイクに扮した「3人のオリヴィア・ロドリゴ」が回答者として登場します。司会者から「なぜここに来たのか」と問われたオリヴィアが、ダメ男との失敗談をクイズ番組の自己PRのようにぶちまけるブラックユーモアが見どころです。 - 後半(02:07〜):家族対抗クイズ番組『Sister Squabble』
画面の砂嵐(02:02)を挟んで切り替わる後半の元ネタは、米国の国民的長寿番組『Family Feud(ファミリー・フュード:100人に聞いたアンケート結果を2家族が早押しで当てる番組)』です。王者「ロドリゴ家(The Rodrigos:双子パンクデュオのVenus Twinsらが参加)」と挑戦者「ローン家(The Roans:人気ドラァグクイーンのAquariaらが参加)」が対峙し、「100人に聞きました、彼女を連れて行くべき場所は?(Places you should take her?)」という出題(02:23)を合図に、チャペルが早押しボタンを叩いて「I took her to a concert!」と2番を歌い始めます。
さらに終盤には『Wheel of Fortune』をパロディ化したルーレット演出や、プロデューサーのダン・ナイグロのカメオ出演も挟み込まれます。「他人が決めたルールや採点基準の上で競わされるクイズ番組」という舞台装置そのものが、「世間や恋人からの勝手な期待(expectations)を撥ね除け、自分自身の基準を取り戻す」という楽曲テーマのメタファーとして機能しています。
同じくダン・ナイグロとのタッグで制作され、相手に搾取される恋愛からの覚醒をドラマチックな映像演出と共に描いたオリヴィアの代表曲「vampire」については、以下の記事で詳しく解説しています。

プロ視点のボーカル&サウンド解剖|80年代ニューウェイヴとクライマックスのハイトーン
サウンド面では、ダン・ナイグロとマイク・ワイズ(Mike Wise)の共同プロデュースにより、ディーヴォ(Devo)やヒューマン・リーグ(The Human League)、B-52’sを彷彿とさせる1980年代ニューウェイヴ/ダンス・パンクのシンセベースとギターリフが軸となっています。チャペル・ローンが参加したリミックス版では、2番のヴァースにレトロゲームのようなチップチューン風の電子音とよりタイトなドラムグルーヴが追加され、テレビゲームのショーアップされた空気感が音響面でも強調されています。
元々チャペル・ローンは、ブレイク前にオリヴィアの『GUTS』収録曲(「lacy」「bad idea right?」「obsessed」)や「Can’t Catch Me Now」でバックコーラスを担当し、2024年の『GUTS World Tour』でもオープニングアクトを務めた盟友です。本作ではその2人の声質のコントラストが最大限に活かされています。
オリヴィアが「bad idea right?」から磨き上げてきた、会話のようにシニカルに吐き捨てるスピーク・シング(語り歌い)と芯のあるチェストボイスで楽曲の土台を作るのに対し、チャペルは演劇的で伸びやかなハイトーンで後半のエネルギーを一気に引き上げます。特に04:01からのクライマックスで「I’ve got big expectations」「She’s got big expectations」と掛け合うパートでは、チャペルがソプラノC(C6)から最高音D6に達する圧倒的なロングトーン・ベルトを響かせ、ラストサビ(04:15〜)で2人のハーモニーが重なる構成が強烈なカタルシスを生んでいます。
『SOUR』『GUTS』から最新アルバムに至るまでのオリヴィア・ロドリゴの代表曲や、キャリア全体の歩み・人気曲ランキングをまとめて知りたい方は、以下のアーティスト特集ページもあわせてご覧ください。

参考・出典
- Olivia Rodrigo – expectations (feat. Chappell Roan) (Official Music Video) – YouTube
- Olivia Rodrigo and Chappell Roan on expectations – The Zane Lowe Show (Apple Music)
- Olivia Rodrigo Releases “expectations” Remix Featuring Chappell Roan – Universal Music
- Expectations (Olivia Rodrigo song) – Wikipedia

